Saturday 31 August 2013

シリア内戦 - 遅過ぎた西側諸国の対応

以下は,8月30日付電子版Die Spiegel誌に掲載された論説"Die militärische Intervention kommt zu spät"の抜粋です.執筆者のAbdel Mottaleb El Husseini氏は,主にドイツ語圏の主要ニュースメディアに記事を提供しているアラブ系ジャーナリストです.

論説の中で,彼はまず1989年10月7日,東ベルリンで行われたミヒャエル・ゴルバチョフ氏の演説の中の次の言葉を引用し,それが,連日実施の可能性が伝えられるシリア内戦へへの米国による軍事介入にも当てはまると言います."Wer zu spät kommt, den bestraft das Leben".*1)(「遅きに失する者は人生によって罰せられる」と訳せましょうか.)ようするに,これまで何十万という死者や何百万という避難民の発生を見ておきながら,化学兵器が使用された疑いがあると言ってようやく何らかの行動に移ったとしても遅すぎると言うのです.もちろん,オバマ大統領にしてみれば,ここに来て何もしないことになれば,もはや米国への信頼は完全に失墜することは明らかなので,何らかの行動を取らざるを得ないでしょうが,一口に軍事介入と言っても,具体的にどのような形で実施されるのか,また,最終的にどのような政治的な目標を達成させようとしているのか,あまりにも不透明です.そして,どのような軍事介入が行われるにしても,それが現在の中東が置かれている複雑な状況から見て,もはや予測不可能な結果を招く可能性も十分に考えられます.

確かに,これまでに発生した大量の犠牲者の責任はアサド大統領にあることは事実ですが, 彼は大統領として,もはや以前のように無制限の権力保持者ではなくなっているのです.今やシリアの内戦においては,むしろヒズボラとイランが重要な役割を演じるようになってきています.こうした状況において,アメリカや同盟諸国による攻撃が行われた場合,それが純粋にアサド軍に向けられたものであったとしても,その中のこれらの組織や国から加わった外国人兵士を巻き込まずに終わることなどあり得ません.そのため,結果的にこうした攻撃が引き金となり,イランとサウジ・アラビアによるシーア派とスンニ派の対立を,シリアのみならずイラク,レバノンにおいてもさらに激化させる可能性さえあるのです.

米国とその同盟諸国はアサド政権の崩壊を望んでいないことを明確に表明しており,そうした姿勢での軍事介入は,内戦を継続させるしか作用しないでしょう.そして,もはや軍事介入が西側諸国に残されたシリア問題解決のための唯一の手段であるとしたら,それはとりもなおさず,この地域においての西側諸国の政治力の破綻を意味するもの以外何者でもないでしょう.米国を始めとする西側諸国はシリア内戦を停止させ,その政治的解決のための機会を失ったのです.

以上,Die Spiegelの記事の抜粋でした.

次に,アルジェリアのフランス語主要紙のひとつEl Watanの8月30日付の記事"«Plusieurs responsables militaires et des soldats syriens ont fui»"から上記に関連している箇所をいくつか紹介します.

当該の記事は,元アラブ同盟シリア派遣団のメンバーの一人Anouar Malek氏にEl Watanの記者が行ったインタビューの内容を伝えるものです.

その中で,Malek氏は,アサド政権がイランやヒズボラに支援を要請した理由として政府軍の弱体化を挙げています.同氏は信頼出来る筋からの情報として,化学兵器が使用され,西側諸国の軍事介入が報道されて以降,多くの政府軍指揮官や兵士たちが兵営を脱出したと言います.これらの軍人たちの中には反政府軍に加わったものもいるそうです.また,記者からの「イラクやリビアにおける軍事介入後の混乱に懲りたアメリカはアサド大統領の失権を望んではいないものの,軍事介入により,こう着状態のジュネーブ国際平和会議(ジュネーブ2)を進展させようとしているという見方があるが,反体制の立場をより優位なものにできるか」という質問に対しては,もし軍事介入の目的がアサド政権の転覆でないとしたら,単なる西側諸国のジェスチャーに過ぎず,シリアの惨劇は継続するだろう.ジュネーブ2については,国際法を無視し,人権を踏みにじったアサド政権の参加無しに開催すべきと答えています.なお,軍事介入が行われた場合のハマスの反応について,次のように語っています.ハマスは,アサド政権に対して反対の立場を表明しているものの,現在エジプトで起きている混乱のため,シリアへの介入は行わないだろうと.

ところで,軍事介入の賛否を尋ねた各国の世論調査の結果は,AFP通信社の日本語版のサイトなどに詳しく伝えられていますが,8月29日付Le Mondeの記事"Syrie : des opinions publiques peu favorables à une intervention"でも紹介されていて,その中で興味深く思ったのが,支持政党から見た場合,極右と言われる国民戦線の支持者の81%は反対,また,政権与党のUMP支持者の60%も反対,唯一賛成が過半数を超えていたのが左派の支持者で,46%の反対に対し,賛成は54%だったそうです.何となくわからないことではない結果ですが.



*1) 実際は,"Gefahren warten nur auf jene, die nicht auf das Leben reagieren."というのが正しい模様です.Cf. http://en.wikiquote.org/wiki/Mikhail_Gorbachev

米国の麻薬と同性間結婚をめぐる動き

まず,麻薬については,8月30日付のL'EXPRESSの"Etats-Unis: le cannabis à usage récréatif aura droit de cité"から.

ワシントン州とコロラド州は,昨年,大麻の嗜好品*1)としての合法化に踏み切りましたが,アメリカ法務省は,木曜日,両州の決定に反対しないことを表明しました.なお,法務省はコミュニケのなかで,両州が大麻の栽培や販売が犯罪組織の収入に結びつかないよう厳格な法的枠組みを設けることを希望するとも述べています.

同時にコロラド州では,個人で使用する目的での自宅におけるマリファナの栽培,同じく所持も限られた範囲内で違法ではなくなります.なお,バーモント州では,今年5月から少量のマリファナの所持が処罰の対象から外されています.そして,医療でのマリファナの使用はすでに多くの州で合法化されています.

次に,同性間の結婚については, 8月29日付Le Mondeの"Les Etats-Unis reconnaissent fiscalement les couples homosexuels"から.

8月29日,アメリカ財務省は6月26日の連邦最高裁判所の判決*2)を受けて,国内または国外で合法的に結婚したカップルは,米国全土に於いて異性間の婚姻と税制上同等の権利を有することを正式に発表しました.これにより,例えば,合法的に結婚をしてアメリカで暮らしているすべての同性間カップルは,家族単位での所得の申告が可能になりますが,ジェイコブ・ルー財務長官は「(同性間結婚をしたカップルは)連邦法がすべてのアメリカ市民に保障する利益,責任,保護を得ることができるようになります.」と述べています.

現在,同性間結婚は31の州で未合法ですが,今回の財務省の決定により, 今後は,合法的に結婚をしている同性のカップルは,全米どの州へ移り住もうと税制上異性のカップルと同じ権利を持てるようになります.



*1) 原文のフランス語では,"à des fins récréatives"(気を紛らわす目的での)
*2) 連邦法においての結婚を異性間のみのものと謳った定義を無効とし,異性間結婚と同性間結婚とに等しい権利を与えた判決.Le Monde今年6月26日の記事"Obama "applaudit" la décision de la Cour suprême sur le mariage gay"参照

Friday 30 August 2013

シリア危機のライブ・ティッカー

以上,ご参考迄に.

同性愛宣伝禁止法違反のロシア人画家,フランスへ脱出

「密告,検閲,恐れ,そして逃亡.21世紀のロシアへようこそ.」という書き出しで始まるのは,28日付電子版L'EXPRESSの文化面の記事"Russie: il peint Poutine en sous-vêtements féminins, puis s'enfuit en France".*1)

同性愛が嫌われているロシア*2)ですが,ザンクト・ペテロスブルグでは法律で同性愛の宣伝を未成年に行うことは禁止されています.そのホモフォビックな法律に違反した疑いで当局から追われているのが,画家のアレクサンドル・ドンスコイ氏.彼は,ザンクト・ペテロスブルグで私設の美術館《権力の美術館》の館長でもあります.この一風変わった美術館で展示されているのは,今のロシアの様々な分野の権力者たちの肖像.でも,その描き方が相当変わっていて,例えば,今回,特に問題視されたのがこの作品(女性の下着姿のプーチン大統領が同じくメドヴェーデフ首相の髪を梳かしている)というように,もはや風刺画というジャンルに収まるのかいささか疑問といったものばかり.

今回の警察の介入は,ある市民からの「(権力の美術館)で展示されている絵は法律に違反しているのではないか」という通報によるもので,カラシニコフで武装した警官隊が出動,法律に違反している疑いがある作品が没収され,さらに美術館も閉鎖されました.自分の美術館の閉鎖の裏には,上述の法律の生みの親であるヴィタリ・ミロノフ議員がいるとドンスコイ氏はミロノフ氏を非難していますが,同性愛の象徴である虹色の旗の前に同氏がたたずんでいるという構図の作品にも法律違反の疑いがかかっています.

ドンスコイ氏は当局からの追求を恐れて,現在滞在中のフランスへ28日に脱出したそうです.

なお,9月4日付Spiegelの記事"Putin und Obama nackt:Russische Polizei konfisziert Gemälde"では,やはりロシア人女性画家のオバマ大統領とプーチン大統領をモチーフにしたこのような作品が紹介されていました.ザンクト・ペテルスブルグのある美術館で展示されていたそうですが,間もなく開催されるG20を前にもちろん当局により没収されたそうです.その美術館も閉鎖されたそうです.(少々過激と思うのでご紹介するのをためらいましたが,一応記録として残しておく事にします.女性には閲覧はお薦め出来ません.)

このポストを書いて暫く経ってから,やはりSPIEGELに11月12日付で"Rechtsextreme in Russland:Grausame Schau der Schwulenhasser"という記事が掲載されましたが,ロシアのネオナチも攻撃の対象を外国人から同性愛者へと変化しているようです.



*1) 独シュピーゲルの同様の内容の記事へはこちらから.
*2) やはりL'EXPRESSの6月12付の記事"La Russie réprime la "propagande" homosexuelle et l'offense aux croyants"によると,世論調査の結果ではロシア市民の88%が同性愛の宣伝禁止を支持,同じく54%が同性愛を罰する必要があると思っているそうですが,この前まで都知事をやっていた人とすごく気が合いそうです.

Thursday 29 August 2013

仕事や勉強が楽しくなるかもしれない文房具あれこれ

まもなく新学期.L'Expressがちょっと変わった文房具を紹介していました.値段も手頃で,クリスマスの贈り物等,ご贈答用にも使えそうです.なお,日本までの発送は可能かどうかは要確認です.(各商品の販売元に英文または仏文のemailで問い合わせるなどして.)全部で25品.カタログの閲覧はこちらからどうぞ.

試しに,11番の注射器形マーカー(Surligneur seringue)や6番のリンゴ形メモ用紙(Bloc-notes "Pomme")をAmazon.frに注文した場合,日本まで発送可能かどうか確認したところ,大丈夫のようでした.こんなもの日本でも売ってそうですが...

お詫びと訂正 - スイスの武器輸出について

先日公開いたしましたポスト「尚武の国,スイス...?」において,誤って,スイスは世界第2位の武器輸出国と書きましたが,正しくは12位でした.(Cf. "Arms industry" in Wikipedia)お詫びして訂正させていただきます.

デモの世界地図

サッチャー首相の政策に対する不満から起こったストライキ,中国天安門広場でのデモ,そしてアラブの春など,1979年から2013年までに世界各地で発生したデモなどの市民の抗議行動の発生地点を時間の経過に沿って表示する地図です.(大きな画面で閲覧されたい場合は,こちらからどうぞ.)作成したのは,ペンシルバニア大学の政治学の学生John R. Beilelerさんで,The Global Database of Events, Language, and Tone (GDELT)を基にしたそうです.時間が経つにつれて発生件数や場所が増えてゆくのが判ります.



以上,電子版Le MondeのBlogsの27日付ポスト"TOUS ENSEMBLE – La carte mondiale des manifestations depuis 1979"より.

Wednesday 28 August 2013

シリア - 軍事介入の法的枠組み

欧米諸国によるシリア内戦への軍事介入の可能性が日増しに高まってきていますが,その法的正当性が明確になっていません.最もすっきりするのが,国連の安全保障会議の決議が採択された場合ですが,ロシアによる反対によりその実現は期待出来ないというのが現状のようです.

国連の安全保障会議は,第二次世界大戦の終結以降,その決議によって世界における紛争の軍事力による解決に法的根拠を与えることができる唯一の国際機関です.(Cf. 国連憲章第7章第42項.)この決議には,15の理事国のうち9カ国以上の賛成と常任理事国による拒否権の発動がないことが必要です.常任理事国とは,中国,アメリカ合衆国,ロシア,フランス,そして英国のことです.

しかし,2011年の3月のシリアの内戦勃発以来,国際社会はその対応方針で一致を見ることはありませんでした.すでに,2011年10月5日,アサド政権に対して法的拘束力を持つ非難決議案に対しロシアと中国は拒否権を発動しましたが,その後,両国は2012年2月と7月にも同決議案に対し拒否権を発動しています.さらに,ロシアは26日の月曜日,安全保障会議の決議なしの軍事介入は危険な行為であり,国際法違反になりかねないと警告しています.このように,安全保障会議の決議が採択されることはまず考えられません.その場合,軍事介入に対して,どのような法的な枠組みが存在し得るでしょうか.

安全保障会議の決議無しに,国連の枠組みに留まりつつ軍事介入を実施出来る場合が二つほどあります.一つ目は,緊急国連総会を招集し,そこで当該の決議を行うというもの.過去の例としては,1950年,米国に率いられた21カ国による国連の名の下での朝鮮戦争への参戦を可能とした国連決議第377号があります.

二つ目ですが,国連憲章の第51条には,「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、 個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならな い。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対して は、いかなる影響も及ぼすものではない。」 と謳われています.ということは,少なくとも理論上は,例えばトルコ,あるいやイスラエルなどの隣国がシリア国境においてシリアの内戦に起因する何らかの被害を受けた場合,正当な集団的防衛措置を求めることができるわけです.ただ,この選択肢の実現は困難と外交筋はみているようです.

では,国連の枠外での軍事介入としては過去にどのような例があったかというと,1999年のコソボ紛争におけるNATOの軍事介入(スロボダン・ミロセヴィッチの軍に対するNATO軍の攻撃)が挙げられます.このとき,NATO軍の攻撃は安全保障会議の承認無しに実施されました.当時,アメリカの国務長官だったマドレーヌ・オルブライト氏は,”The NATO military intervention was illegal but legitimate",つまり,「NATOの軍事介入は違法だったが正当なものだった.」と述べています.この,コソボにおける軍事介入は,その後も例外的事実として引用されていて,2003年,アメリカのブッシュ政権はこれを根拠に国連の承認無しにイラク侵攻を行っています.そして,今回,問題となっているシリアへの軍事介入についても,国連において影響力のある人々はコソボの例を基にしてその可能性を探っています.

こうした,国連の枠外における軍事介入の選択肢は,"coalition of the willing"(「有志連合」とでも訳されるのでしょうか)と呼ばれ,有志の国々はフランス,英国やトルコなどの周辺国になりますが,例えばトルコはすでに国連の承認が無い場合でも有志連合による軍事介入に参加する意思を表明しています.

現在,国連の調査団がシリアで化学兵器が使用されたか否かの調査を行っていますが,すでにアメリカのケリー国務長官も,また,英国のハーグ外相もシリア政府軍が化学兵器を用いた事は疑い得無いと述べており,彼らにとって越されるべきではなかった一線がアサド大統領によって越された今は,すべての選択肢を検討の対象とする姿勢を見せています.なお,フランスのオランド大統領は,2005年に国連総会で定義された「民間人を守る責任」を引用し,その枠組みにおいて軍事介入は正当化できるのではないかと述べています.

以上,2013年8月27日付電子版Le Mondeの"Syrie : quel serait le cadre légal pourune intervention militaire ?"からでした.下の動画は,Le Mondeの編集長アラン・フラション氏の解説です.


Syrie : " Difficile d'imaginer qu'il n'y ait... 投稿者 lemondefr 

なお,上に紹介した内容と類似したものが,Die Weltの25日付の記事"Kosovo-Krieg soll Blaupause für Syrien-Schlag sein"においても述べられていました.また,関連記事としてやはりLe Mondeの28日付記事"Syrie : les Etats-Unis auraient intercepté des conversations "paniquées" de l'armée"も挙げておきます.

免許無しで借りることができるレンタルハウスボートでゆったり運河の旅

こんなサイトがあります.http://www.en-bateau.co.uk/

観光シーズンがそろそろ終りに近づき,大幅なディスカウントが実施されているようですが,ブルゴーニュの運河を家族や気の合う仲間とのんびり船の旅というのも一興かもしれません.ご興味がありましたらこちらへ.

シェンゲン圏内ビザ無し滞在日数の算定方法の変更(2014.8.13日訂正)

(2014年8月13日に内容の一部を訂正しています.)

6月26日付のEU議会のコミュニケによると,今年10月18日からシェンゲン協定圏内でのビザ無し滞在日数の算定方法が変更されるそうです.

当該のコミュニケの各国語版は,こちらからダウンロードが出来ます.

当該圏内をたまに,例えば1年に一度程度訪れる旅行客等には実質的に影響はありませんが,短期間に複数の滞在を繰り返す場合には影響がでてきそうです.

以下,新たに発効する滞在日数の算定方法をEU議会のコミュニケから引用します.

英文:
(5) Article 5 is amended as follows:
(a) paragraph 1 is amended as follows:
(i) the introductory part is replaced by the following:
"1. For intended stays on the territory of the Member States of a duration of no more than 90 days in any 180-day period, which entails considering the 180-day period preceding each day of stay, the entry conditions for third- country nationals shall be the following:";

念のため,フランス語も:
5) L'article 5 est modifié comme suit:
a) le paragraphe 1 est modifié comme suit:
i) la partie introductive est remplacée par le texte suivant:
"1. Pour un séjour prévu sur le territoire des États membres, d'une durée n'excédant pas 90 jours sur toute période de 180 jours, ce qui implique d'examiner la période de 180 jours précédant chaque jour de séjour, les conditions d'entrée pour les ressortissants de pays tiers sont les suivantes:";

つまり,これまでは単純に半年間において3ヶ月を超えない滞在の場合,ビザは不要とされていたのですが(EU Regulation No. 562/2006),2013年10月18日以降は,シェンゲン圏内滞在期間中の各日付の前日から数えて過去180日間に合計で90日を超える滞在をしていてはいけないことになります.

具体的には,例えば12月20日から1週間圏内に滞在するとします.その場合,もし入国検査を受ける日の20日の前日の19日から数えて180日間にシェンゲン圏内において合計90日の滞在をしていた場合は,入国はできないということになります.*1)

なお,パスポートの残存有効期間については,シェンゲン圏内を離れる日において,少なくとも3ヶ月間必要です.また,パスポートは過去10年以内に発給されている必要があります.(日本の場合,問題はありませんが.)




*1) スイス大使館のサイトのこちらのページに具体的な例を用いた説明がされているので,ご参照ください.また,同じく日本の外務省のこちらのページにも説明が記載されています..

Tuesday 27 August 2013

イタリアの水難救助犬訓練学校のURL

Italian School of Water Rescue Dogs
Scuola Italiana Cani Salvataggio

英語のページはこちらから.
イタリア語のページはこちらから.

イタリアにある水難救助犬とともに救助にあたる人材を育てる学校です.
外国人の受講も可能のようです.なお,水難救助犬として活躍するのは,主にニューファンドランド,ラブラドール・レトリーバー,ゴールデン・レトリーバーの三犬種のようです.

twitter上で流れるNSAの冗談画像

#nsapickuplinesで検索すると色々と面白い画像が表示されます.その中で...

個人的に最も気に入ったのが,こちら.重厚な味わいです.

単純で判り易いと思ったのが,こちら

深みがあると思ったのが,こちら.憲法(連邦基本法)は尊重してもらいたいものです.政府にはしっかりと読んでもらいたいという願いを込めて.

こちらの写真ですが,彼女の涙の理由はどちらなのでしょうか...

最後に,twitter上にあるかどうかは知りませんが,NSAに抗議する市民たちが掲げていた横断幕に次の標語が書かれていました."YES WE SCAN!".


本ブログ内の関連ポスト:
"NSAによる要監視国のランク付けを示す地図";
"ベルリンのアメリカ大使館による盗聴の仕組み(SPIEGEL TV)";
"NSAのサイバー空間における情報収集の仕組み(フランス語版ビデオ)"

Monday 26 August 2013

2013-2014秋冬オートクチュール・コレクション

7月に開催されたDéfilé Haute Couture automne-hiver 2013-2014より.

ノートル・ダム大聖堂にまつわる悪魔の伝説

毎年1,400万人もの人が訪れるパリのノートル・ダム大聖堂は,フランスでもっとも多くの人が訪れる建物です.キリストがかぶったいばらの冠や磔の際に打ち込まれた釘,そして十字架の木片などを一目みるために世界中から多くのカトリック信者も集まります.今年,850歳の誕生日を迎えた大聖堂では,清掃や改修工事が行われていますが,ちょっと変わったパリ案内のブログParis ZigZagを綴っているMichel Faul氏が,西側正面の三つのポータルとそれにまつわる悪魔の伝説を紹介します.(8月4日付L'EXPRESSのニュースレターの記事"850 ans de Notre-Dame de Paris: les légendes diaboliques de la cathédrale"より)


以下,簡単にビデオの内容をまとめました.

まず,Faul氏が最初に案内するのは,向かって右側に位置する聖アンヌのポータル.聖マルセルが一匹の竜を踏みつけている彫像があります.伝説によると,ある罪深い女がパリ近郊に埋葬されたのですが,彼女の墓から突然竜が飛び出し,パリの人を悩ませたそうです.しかし,聖マルセルが杖で竜を叩き,セーヌに身を投げるように命じたため,竜はそれに従い,それ以降姿を見せなくなったとのこと.

同じく聖アンヌのポータルにまつわる伝説です.木製の扉に精巧な鉄の細工が貼付けられていますが,伝説によると,この美しい細工を造るように命じられた見習いの職人は,自らの能力に自信がなかったため悪魔と契約を結びました.悪魔は一夜のうちにこれを完成させ,約束通り職人の魂を奪ったため,職人はベッドの上で死んでいたそうです.

次は,中央の最後の審判を表したポータル.中央の王座にキリストが座し,大天使ミカエルと悪魔が死者の魂の重さを秤にかけて計っています. 面白いことに,彼らの足下で小悪魔がなんとか地獄に引き込もうと秤の片側をひっぱっています.

そして,左(北)側の聖マリアのポータルです.ここには誘惑されるアダムとエバの彫像が見えますが,その間に一人の女性が顔を見せています.これは,ユダヤの密教カバラが伝える最初のエバ,世界中の魔物の母リリト(Lilith)*1)だそうです.つまり,聖書では蛇がエバを誘惑するのですが,ここでは蛇の代わりにリリトが彼女を誘惑しているわけです.

最後は,上方の王たちのギャラリーについてのお話.ここにはキリストの家系に属するユダヤの28王の彫像が据えられています.フランス革命の推進役サン・キュロットと呼ばれる人たちによってこれらの像の首は切り落とされたそうです.それは,彼らが,これらをフランスの王の像と勘違いしたためでした.

ところで,今回の修復工事には,パイプオルガンの12,000ものパイプの清掃や鐘楼の鐘の音の調整も含まれているそうですが,特に後者は,1769年当時の音色を復活させるために行われるそうです.




*1) アダムとエバが悪魔によって誘惑されるシーンでリリトが現れる彫像は,パリのノートルダム大聖堂の他にも,やはり世界遺産のアミアンの大聖堂の西側正面の中央ポータルに見ることができます.この,聖書には言及されていないアダムの最初の妻で後に魔性の母となる存在が,なぜ,このように各地の聖堂の壁を飾っているのか,その理由は判りません.聖化された女性の象徴としてのノートルダム(Our lady=聖母マリア)との対比として描かれているのでしょうか.また,バチカンのシスティーナ礼拝堂におけるミケランジェロ作の天井画のアダムとエバの堕落のシーンにも,やはり下半身が蛇のリリトのモチーフが現れます.

なお,リリトについては,Siegmund Hurwitz著"LILITH Die erste Eva Eine Studie über dunkle Aspekte des Weiblichen"などを参照ください.下の写真は大英博物館所蔵のリリトといわれるリリーフ.(紀元前1950年頃.シュメール出土.)その下がリリト除けのお守り.三人の天使(Sanvai, Sansanvai, Semanglof)の名前が表記されています.リリトは新生児を狙う(特に新月の夜に)ので妊婦の部屋などに置かれます.リリトは,また,女性解放運動のシンボルとしても用いられています.(例えば,こちらのサイトをご覧下さい.)

厭戦ムードのアメリカ

政府軍による化学兵器の使用が疑われているシリアの内戦.アメリカや同盟国は軍事介入の可能性について検討し始めましたが,25日付ドイツの電子版Die Welt紙の記事"Kosovo-Krieg soll Blaupause für Syrien-Schlag sein"に,8月23日にReuters-Ipsosによってアメリカ市民に実施されたアンケートの結果が紹介されていました.このアンケートはシリアへの攻撃の賛否について問うもので,結果は次のとおりです.
  •   9%:賛成
  • 60%:反対
また,化学兵器が使用された事が明確になった場合でも
  • 25%:賛成
  • 46%:反対
イラクやアフガニスタンへの軍事介入で,今や大半のアメリカ市民は戦争に疲れているようです. その上,秋の連邦議会においても多額の財政赤字を巡って野党側からのきびしい追求が予想され,引き続きオバマ大統領は苦しい立場に置かれそうです.

同様の内容が,8月27日付独Focusの記事"Obama vor Entscheidung – US-Bürger wollen keinen Militäreinsatz gegen Syrien"にも掲載されています.(ライブ・ティッカー)なお,ロイターのサイトの関連記事は,こちらです.

スイス鉄道関連イベント - 8月末から9月にかけて

個人的な興味による優先順位に従ってご紹介します.

最も注目しているのが,すでにこちらのポストでご紹介した241Aと241Pというフレンチ・マウンテンの重連がゴッタルド峠越えに挑むという迫力満点のもの.両機とも4気筒エンジンなのでどんなブラスト音が聞こえるのか大いに興味があります.9月28日,FullとChiasso間で運行予定.(241の重連については,こちらに見事な映像が公開されています.)

次は, 今年,開業100周年を迎えるBLS(Lötschberg Bahn)で行われる大車両パレード.Hohtenn付近のLuogelkin鉄道橋の上を20両の機関車や自走車両などが走行します.詳しくはこちらのページへどうぞ.(ドイツ語のみ) 9月7日の夕刻開催予定.ただ,何でも高くつくスイスのことなので仕方がないのですが,立ち見席でも大人100フランとられるそうです.日本円で1万円以上払って見る程の価値が果たしてあるかどうか,紹介しておいて無責任ですが,正直申して疑問です.

最後は美しい車窓風景を楽しみながらワインも楽しむという趣向のイベント二つ.一つ目はワインとラクレットをたっぷり味わう1泊2日のクラシック・トレイン(1等客車+バー,牽引するのはRBe4/4)の旅.8月31日,9月1日に運行されます.詳しくはこちらからダウンロードできるフライヤーをご覧下さい.二つ目は,9月14日に開催される日帰りのワイン・トレインの旅.プルマンカーも連結された豪華編成でベルン - シール(Sierre / Sieders) - ブリーグ - ベルンと周遊しながら,ワイン・グラスを傾けながらたっぷりと3コース・メニューを味わいます.くわしい情報はこちらをご覧下さい.(ドイツ語)フライヤーのダウンロードはこちらから.

以上の他にも多くのイベントが予定されているので,以下のサイトでご確認ください.

パキスタン,洪水で少なくとも178名の死者

パキスタンでも豪雨が続き,5,600以上の村の150万人もの住民が被害を受けています.すでに20,300ものの住宅が倒壊し,少なくとも178人の死亡が報告されています.怪我をした人の数も855名にのぼるとのこと.現在,各地に避難用の施設が建設されていますが,パキスタンでは2010年の豪雨災害で1,800人もの犠牲者を出しており,当局の無策が繰り返されたという批判が起きています.

以上,Südostschweiz.chのニュースページの25日付記事"Mindestens 178 Tote durch Überschwemmungen in Pakistan"より.同様の内容の記事がやはり25日付けBieler Tagblattの"Mindestens 178 Tote durch Überschwemmungen in Pakistan"にも掲載されています.

Sunday 25 August 2013

ロシアと中国の深刻な洪水被害

8月24日付電子版Spiegelの記事"Satellitenbild der Woche: Russland und China unter Wasser"より.

中国の北東地区およびロシアの極東地区は,過去10年来最悪の洪水被害に見舞われていて,数千人もの住民が自宅を離れることを余儀なくされ,また,数百人が命を失ったそうです.Speigelの記事にNASAによる被災地の衛星写真が掲載されていました.2008年8月当時に比べるとアムール川流域がかなり広がっているのが判ります.NASAの衛星写真へはこちらからどうぞ.

ヨーロッパ自転車事情

まず,今月28日から31日からドイツ,Friedrichshafenで開催されるヨーロッパ自転車見本市Eurobikeのサイトへのアクセスはこちらからどうぞ.なお,開会式ではメルケル首相の式辞があるそうです.ところで,最近,ドイツでは交通規則を無視して走り回るKampfradler(戦うサイクリスト?)が問題になっているようですが,日本よりはまだましかもしれません.

英国からは,ヨーロッパ最長1.6kmの自転車専用のトンネルでの通行が開始されたというお話.といっても,新たに建設されたものではなく,廃止された鉄道トンネルを自転車専用として再利用することになったものです.そのため,天上には煤が残っていたり,コウモリがぶらさがっていたりとなかなか趣がありそうです.このCombe-Down-Tunnelは,Midford,Bath Queen Square間に位置し,開通は1874年.当時,英国において通気設備のないトンネルとしては最長だったそうです.夏にはBournemouthへ向かう大勢の観光客を載せた列車が,また,一年を通して貨物列車が通行し,それなりに活気があったようですが,1929年,専務車掌を含む三名の職員が殉職するという事故が発生し,それ以降,時折トンネル内を走行する幽霊列車が目撃されるようになったとか.そして,1960年代,国鉄の合理化事業の一環として廃止が決定されました.

自転車愛好家のみならず,鉄道愛好家の活躍によって復活した,この因縁めいた話が伝わるトンネルですが,自転車専用として路面はレールの替わりにアスファルト舗装されています.また,照明設備も7 mおきに設置されています.それでも先住民であるコウモリたちの生息環境も維持する必要があるため,それらの場所では照明は暗くされています.特に夏には最適のサイクリングコースといえそうです.

(2013年4月5日付電子版Spiegelの記事"England eröffnet längsten Fahrradtunnel Europas"より.)

最後は,少し古いウェブ写真集ですが,自転車先進国オランダの自転車のある風景です.こちらからどうぞ. 関連記事へはこちらから.

Saturday 24 August 2013

『アメリー』,ブロードウェイデビューへ

『アメリー・プーランの素晴らしい運命』(Jean-Pierre Jeunet監督作品,2001年)というと主人公のアメリーを演じたのAudrez Tautouの出世作ですが,まもなくブロードウェイのミュージカルとして上演されるというお話です.

計画を打ち明けたのは作曲家Dan Messeで,自身が所属する団体HemのFacebook上で伝えたそうです.制作には劇作家のCraig Lucasや作曲家のNathan Tysenらが加わるとのこと.

映画『アメリー』のフランスにおける観客動員数は860万人,世界中で1億5千2百万ドルの興行収入を記録したという大ヒット作.最優秀外国語映画賞を含むオスカー賞5部門にノミネートされました.

以上,8月23日付電子版L'Expressの記事""Amélie Poulain" va devenir une comédiemusicale à Broadway"からでした.

個人的な感想ですが,この映画の登場人物の中で特に好きだったのは,画家のDufayelさんと八百屋の店員のLucien.好きなシーンは,アメリーが自分の死を想像するシーンで特にその中で石切をするショットでした.Joseph役のDomique Pinonも良かったですね.彼を初めて見たのは,何ともグロテスクな映画"Delicatessen"(1992年,フランス)でしたけど.それと,後で知ったのですが,店員のLucienを手荒く扱うためにアメリーからお仕置きを受けるMonsieur Colligonの八百屋もメアリーの勤務先のLe Café des 2 Moulinsのそれぞれパリに実在するようですね.前者はrue des Trois-Frèresに,そして,後者はモンマルトルに.

Friday 23 August 2013

中国の飲料水のヒ素汚染

中国保健省によれば,すでに中国全土で10000人ほどの中毒患者が確認されているようですが,スイスの新聞Tages-Anzeigerに汚染地域の地図が掲載されていました.赤が最も汚染濃度が高い飲料水が確認された地域で,右に行くに従って低くなります.調査対象となったのは,20,517の村にある445,000の水源です.

以上, 22日付電子版Tages-Anzeiger紙掲載の"Die grösste Massenvergiftung"より.

アル・カイダに狙われるヨーロッパの高速列車

巴里のキオスクからという名前のわりには,フランス発の話題がきわめて少なくお恥ずかしい次第ですが,19日付のL'EXPRESSのニュースレターに気になる記事が載っていたのでご紹介します.

記事のタイトルは,"Al-Qaïda menace les trains européens: quelles mesures de sécurité?"(アル・カイダの脅威にさらされるヨーロッパの列車)となんとも物騒なもので,ドイツのBildのこちらの記事の転載だそうですが,ドイツの情報機関は,考えられる攻撃の形態として線路に仕掛けた爆発物によるもの,同じくトンネル内におけるもの,さらに車内に仕掛けた爆発物によるものなどを挙げています.

現在,ヨーロッパを鉄道で旅行されている方は,特に高速路線の駅の警戒が強化されているのに気がつかれたかもしれません.もっとも,ドイツでは私服警官による警戒のようです.チェコにおいても,詳しい内容は報じられていませんが,警戒措置が講じられたそうです.

ところで,ドイツの情報機関は,この情報をアメリカのNSAから得たそうです.となると,もちろん根拠がない情報ではないでしょうが,個人情報を集めまくって世間の批判を受けているこの機関が自らの存在の必要性を示すためのジェスチャー的意味もあるように思えてしまいます.8月21日付電子版Le Mondeの"Espionnage de la NSA : les Etats-Unis reconnaissent que l'agence a violé la loi"によると,NSAは,アメリカのウェブ上の通信の75%の中身を見ることができるそうです.(同様の内容が,やはり21日付電子版L'EXPRESSの記事"Etats-Unis: la NSA reconnait avoir interceptéillégalement des milliers de courriels",さらにスイスのNZZの21日付"NSA soll drei Viertel des Internetverkehrs in den USA überwachen können"においても伝えられていました.)また,20日付のLe Mondeの記事"Snowden : le "Guardian" raconte les pressions subies en Grande-Bretagne"によると,英国の新聞"The Guardian"は,英国政府からEdward Snowden氏からもたらされた資料を破棄するよう脅されたとか.

ヨーロッパの高速列車を利用される際にはくれぐれもご用心を.

Thursday 22 August 2013

シベリア横断鉄道の写真

7月2日付電子版Spiegelの"Transsibirische Eisenbahn: Unter der Fuchtel der Schaffnerin"でシベリア鉄道の写真が数枚紹介されていました.ギャラリーへはこちらからどうぞ.今から遥か昔のソ連時代,初めてフランスへ赴くときにハバロフスクから急行ロシア号を利用しましたが,そのときからあまり変わっていないようです.

Tuesday 20 August 2013

第二次世界大戦の歴史に興味を持つ若い方へ薦めたい本

相当偏りがあることは承知の上で,ぱっと頭に思い浮かんだものを順不同でご紹介すると以下のとおりです.なお,想定年齢は中学生以上とさせていただきました.
  • Hermann Kinder, Werner Hilgemann 共著『The Penguin Atlas of World History: Volume 2: From the French Revolution to the Present』 (Penguin Reference Books)(地図年表とでも呼べるもので,日本のアマゾンでも購入可能です.原書はドイツで出版されています.*1) 当時の国際情勢を客観的かつ包括的に把握するのに最適の資料だと思います.フランス語版もあります.*2)
  • デイヴィッド・バーガミニ 著,いいだもも 訳『天皇の陰謀』(上下巻構成でかなりのページ数があり,全巻読むのに骨が折れます.)
  • ヘレン・ミアーズ 著『アメリカの鏡・日本』(角川oneテーマ21シリーズに抄訳版がありますから,そちらを読んだ方がお手軽.)
  • 加藤典洋 著『アメリカの影』(講談社学術文庫.すぐに読み終わります.)
  • 高木万亀子 著『静かなる楯 米内光政』(こちらも上下巻構成で読むのに骨が折れます.米内光政を扱った本では,阿川弘之 著『新版 米内光政』(上下)のほうが読み易いと思うので,とりあえずこちらを読んでざっと流れを押さえておくというのもひとつの方法です.)
  • 水木しげる 著『ラバウル戦記』(ちくま文庫.あっという間に読み終わります.)
  • Ken Burns  監督『The War』(900分,6枚組のDVDです.英語の聞き取りの練習も兼ねて視聴してみるのは如何でしょう.値段は,Amazon.comで購入する場合,$46.99です.本ではありませんが,ここにご紹介したもののなかでの一番のお薦めです.第二次世界大戦というもの全体を理解するための資料としては,最も充実している資料といえるのではないかと思います.なお,あらかじめお断りしておかなければならないのですが,各国の兵士などの死体の映像も多く収録されています.そのため,これだけは少なくとも中学生の方には不向きかもしれません.ただ,このドキュメンタリーや後に紹介する"14 - Tagebücher des Ersten Weltkriegs"(ドイツ語),"14 - Des armes et des mots"(フランス語)を見ると,『男たちの大和/YAMATO』(2005年)『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』(2011年)など,近年,日本で制作された映画は,ことごとく単なるナルシシスティックなファンタジーでしかないことがよく判ります.ジャンルが異なるから止むを得ないのかもしれませんが.であったとしても,これらの日本の戦争映画の制作意図は全く理解出来ません.
  • André Singer 監督『Night Will Fall』(75分,2014年9月に公開された作品.Amazon.co.ukでは2015年2月2日発売予定.(£14.00)対象15歳以上.1945年,連合軍のカメラマンたちにより撮影された開放直後の各地の強制収容所の記録映像をヒッチコックらが編集したもの.視たとき,相当なショックを受けましたが,必見のドキュメンタリーだと思います.)
  • リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー,永井 清彦 訳『新版 荒れ野の40年 ヴァイツゼッカー大統領ドイツ終戦40周年記念演説』(岩波ブックレット No. 767) 
  • 吉田満 著『鎮魂戦艦大和』(講談社.単行本と上下巻に分けられた文庫本があります.「臼淵大尉の場合」,「祖国と敵国の間」,「戦艦大和ノ最期」の三作が収められていますが,個人的には特に始めの二作品が好きです.このうち,「戦艦大和の最後」は,1953年,新東宝によって映画化されていますが,大和の元副長能村次郎氏の教導の下に制作されていて,個人的に好きな映画の一本です.*3)) 
  • 池田清 著『海軍と日本』 (中公新書 (632))(近代日本の非合理性を軍という視点から分析した名著.)
また,工業,機械技術に興味のある方へはさらに次の二冊もお薦めします.(何故日本が戦争に勝てなかったのか,日本側の理由を明確にしています.)
  • 内藤初穂 著『海軍技術戦記』(ハードカバーでそれなりに厚い本ですが,テーマに興味がある場合,楽に読めます.)
  • 大内建二 著『間に合わなかった戦闘機』(光文社文庫.戦闘機が好きなら,すぐに読めてしまいます.写真と図面が豊富なのがうれしいポケットブックです.)
  • 前間 則 著『悲劇の発動機「誉」―天才設計者中川良一の苦闘』(戦闘機用として開発されたエンジンの歴史から,日本民族の非合理性を浮き彫りにしています.)
直接,第二次世界大戦を取り上げてはいませんが,日本人の非合理性を理解するうえで,下の本も参考になると思います.
  •  鈴木真哉 著『刀と首取り―戦国合戦異説』 (平凡社新書)
さらに,もう二冊お薦めしたい本があります.
  • 中田整一 編/解説『真珠湾攻撃総隊長の回想 淵田美津雄自叙伝』(講談社) 
  • 曽我部秦三郎 著『二十世紀の平和論者 水野広徳海軍大佐 日米戦争を明治から憂えた男』(元就出版社)
淵田氏は真珠湾攻撃における現場の指揮官であり,水野氏は第二次世界大戦時にはすでに軍を去っていた元海軍軍人ですが,二人とも日本人には珍しい徹底した合理主義者で,彼らの視点を通じて日本人の非合理性,そして前近代性が見えてきます.日本人の非合理性,前近代性といえば,鈴木眞哉 著『刀と首取り』(平凡社新書 036)もお薦めしたい本です.

 付録
ベルリンの壁崩壊から四半世紀を経た昨年,ZDFで放送された『タンバッハ - ある村の運命』 も大戦後のドイツを襲った悲劇を綴った素晴らしいドラマでした.

また,ドイツ語がお読みになれて,且つ国家社会主義ドイツ労働者党が政権についていた時代にそれが行ったことやそれと国民との関係,さらに現在に残る影響などついて興味をお持ちなら,手元にあるものの中から選ぶと以下の4冊が比較的参考になるかもしれません.(内容に対して,個人的に特に興味深く思えたものには★印を付記しました.)
  • Aly, G., HITLERS VOLKSSTAAT Raub, Rassenkrieg und nationaler Sozialismus, Frankfurt am Main, 2006, S. Fischer Verlag GmbH
  • Aly, G. ed., VOLKES STIMME Skepsis und Führervertrauen im Nationalisozialismus (2. Aufl.), Frankfurt am Main, 2007, S. Fischer Verlag GmbH★
  • Welzer, H., Der Krieg der Erinnerung Holocaust, Kollaboration und Widerstand im europäischen Gedächtinis, Frankfurt am Main, 2007, S. Fischer Verlag GmbH★
  • Welzer, H. ed., TÄTER Wie aus ganz normalen Menschen Massenmörder werden, Frankfurt am Main, 2007, S. Fischer Verlag GmbH
そして,もう一冊,特にナチスドイツの占領地におけるユダヤ人などの輸送に用いられた鉄道(ドイツ帝国鉄道)の歴史については,次の文献がお薦めです.
  • Engwert. A,, Kill, S., SONDERZÜGE IN DEN TOD Die Deportationen mit der Deutschen Reichsbahn, Köln, Weimar, Wien, 2009, Böhlau Verlag
最後に,もし第一次世界大戦にも興味をお持ちで,且つフランス語かドイツ語のいずれかの言語が少なくとも読めるのであれば,2014年にARTEで放送された,参戦国の14人の民間人,あるいは軍人の日誌を忠実に再現したドキュメンタリー"14 - Tagebücher des Ersten Weltkriegs"(ドイツ語),"14 - Des armes et des mots"(フランス語)をご覧になることを強くお薦めします.DVDおよびブルーレイでAmazon.de,Amazon.frなどでそれぞれ購入可能です.また,フィクションですが,france3が放送している"Un village français"も素晴らしい作品です.フランスの地方の小さな村の住民たちが,ナチスおよびそれに協力するヴィシー政権下で経験したさまざまな出来事をとてもリアルに描いています.個人的に最近視たドラマの中で際立って完成度の高いものです.

ところで,上記の本の紹介のなかで,しばしば,'日本人の非合理性'という言葉を用いましたが,確かに,私たちは,近代戦の遂行に当たって必要な西洋的目的合理性とは,今日でも哀れなほど無縁な民族です.しかし,それならば,私たちは,遠い先祖の時代から,西洋近代社会がその基礎に於いている合理性とは,全く異なる原則に沿って,その営みを続けて来たのではないか,そう思えることも事実です.その原則が何なのか,まだ,答えは見いだせていません.




*1) dtv-Atlas Weltgeschichte: Band 2: Von der Französischen Revolution bis zur Gegenwart Aktualisierte Neuausgabe [Taschenbuch]
*2) Atlas historique : De l'apparition de l'homme sur la terre au troisième millénaire [Broché](ドイツ語版(2014年発行)も英語版(2004年発行)も2巻構成になっていますが,フランス語版(2006年発行)は1巻にまとめられています.)
*3) 新東宝によって制作された戦争をモチーフとした映画は,リアリズムを重視した作風で優れた作品が少なくありません.他に,隊員の手記を基にした『人間魚雷回天』(1955年)も個人的に好きな映画です.

フランスのSLが好きな方へ - Fullのオープン・エンジン・ハウスの報告と241が重連で牽引する特別列車のお知らせ

今年のこどもの日に,スイスのFullでオープン・エンジン・ハウスが開催され,ヨーロッパで動態保存されている蒸気機関車のなかで,手動投炭式としては最大の241 A65*1)が展示されていました.以下,当日撮影した写真の中から数枚掲載します.元フランス国鉄の機関車で,車軸配置は形式名から判るように,2D1のマウンテンタイプです.



外側シリンダのメイン・ロッドが第2動軸に接続されているのがこの形式の特徴.ただ,こうした構造は,ドイツの昔(領邦鉄道時代)や東独国鉄によって初期に開発された4動軸機では一般的なものでした.(例えば,旧ザクセン国鉄XX HV形,後の帝国鉄道19.0形,旧プロイセン国鉄P 10形,後の帝国鉄道39.0-2形,東独国鉄の改造機22形,東独国鉄の25形,旧プロイセン国鉄 G 7.1形,後の帝国鉄道55.0-6形,旧バイエルン国鉄G 4/5 H形,後の帝国鉄道56.8-11形,旧ザクセン国鉄XI HV形,後の帝国鉄道57.2形など.また,3動軸機においても,旧プロイセン国鉄S 10形,後の帝国鉄道17.0-1,旧バイエルン国鉄S 3/5形,後の帝国鉄道17.4-5形,旧ザクセン国鉄XII HV形,後の帝国鉄道17.7形のように,メインロッドが第1動軸に接続されていたもの少なく有りませんでした.)こうした構造は,恐らく,カーブにおける走行性の向上を計ることと関係したいたのではないかと思います.


スイスには,この他,元フランス国鉄の機関車としては241A65のかなり年下の妹にあたる241P17*2)やミカド機の141R1244*3)が動態保存されています.このうち,141R1244は,Fullでのオープン・エンジン・ハウスの数日後に,やはりスイスのSissachで開催されたスイス・SLデーで披露されました.なお,このイベントには,高性能の万能ミカド機ドイツ国鉄の41形*4)も登場し,美しい仏独ミカド機の顔合わせが実現しました.(たまに,この二両が重連で特別列車を牽引することもあります.)

141R1244.車輪はボックスです.メインロッドは,241Aと異なり第三動軸に接続されています.
バイエルン州の歴史的技術遺産に指定されている41 018.こちらもメインロッドは第三動軸に接続されています.よくみると煙室の右側上部に,警報機のない踏切などで接近を知らせるための鐘がついています.そして,旧東ドイツ国鉄所有機に見られる煙室扉中央の円形開閉ハンドルやエプロン部の覆いが見られないことから旧西ドイツ連邦鉄道所有機だったことが判ります.41形については,以前に書いたこちらのポストで少し詳しく取り上げています.
SLデーに運行された元フランス国鉄の141Rとドイツ国鉄の64*5)の重連が牽引した特別列車.仏独の機関車の共演が見られるのがスイスの保存鉄道のユニークなところ.ただ,ドイツで運行される特別列車などとは異なり,往路復路ともに機関車の向きは同一.Rümlingen付近にて.



ところで,来る9月28日,241A65と241P17牽引の特別列車がFull, Chiasso間で運行されます.途中,ゴッタルド峠を越えるルートですが,二台の巨大なフレンチ・マウンテンの奮闘ぶりが期待できます.詳しくは,Verein241.A.65のサイトをご覧下さい.イベントのフライヤーのダウンロードはこちらから.乗車券の予約の申し込みは,9月25日迄可能のようです.(申し込みは,もちろん英語で大丈夫のはずです.)

なお,このマウンテン形241.Aの出力はWikipediaによると,およそ2,570 kWとのことですが,それを大きく上回る機関車がフランス国鉄には存在しました.1960年に廃車解体されてしまった242.Aです.241-01から改造された車両ですが,手元の資料によると,その出力は2,940 kW以上だったそうです.*6)


関連ポスト:

*1) UIC表記では,2'D1' h4v.("v"は複式("Verbundmachinen")を示す記号.高圧シリンダーを動かした後の蒸気は低圧シリンダーへ導かれ,もう一度それらを動かしてから大気中に排出されます.)動輪直径:1950mm.外面的な特徴としては,外側の高圧シリンダーの往復運動を伝える主連棒が第二動軸に接続されていること.日本の4動軸機関車(D形,貨物用)には見られない構造です.内側の低圧シリンダーのそれは第一動軸に接続されています.詳しい性能諸元はこちらをご覧下さい.フランスの機関車の形式表記については,Wikipediaのこちらのページご覧下さい.(同じテーマを扱った日本語のページには記載されていません.)
*2) 2'D1' h4v.動輪直径:2000mm.こちらのタイプでは,外側の低圧シリンダから伸びる主連棒は第二動軸に接続され,内側の高圧シリンダの主連棒は第三動軸に接続されています.詳しい性能諸元はこちらをご覧下さい.
*3) 1'D1' h2. 動輪直径:1650mm.詳しい性能諸元こちらをご覧下さい.
*4) 1'D1' h2. 
動輪直径:1600mm.詳しい性能諸元こちらをご覧下さい.雑誌"Eisenbahn JOURNAL"の今年2013年1月号がこの形式を特集していました.
*5) 1'C1' h2t.動輪直径:1500mm.詳しい性能諸元はこちらをご覧下さい.
*6)  Dörflinger, M., Dampf Lokomotiven, Köln, KOMET Verlag GmbH, 2011, p76.Wikipediaの該当項目には,3,900 kWと記載されています.改造が完了した1946年当時,ヨーロッパで最強の機関車でした.因みにドイツにおける最高速度記録保持車の05 002(1935年製造)の出力は,1,735 kW(2,360 PSi)だったので,この値が圧倒的なものであったことは間違いありません.

Sunday 18 August 2013

尚武の国,スイス...?

(このポストを公開した際,スイスが世界第2位の武器輸出国と誤った記載がありましたので当該の文章は削除させていただきました.実際は,12位です.Cf. "Arms industry" in Wikipedia.以上,お詫びして訂正致します.)

来月22日に予定されているスイスの国民投票について,最新の世論調査の結果がSwissinfo.chの記事"Obligatorische Wehrpflicht bleibt den Schweizern heilig"*1)
に紹介されていました.下に示されている一番上の円グラフは,国民皆兵制度廃止に対して賛成,反対のどちらに投票するかを訊ねた結果ですが,赤い部分が反対およびどちらかというと反対という回答の割合を示していて,合計で57%の人が廃止には反対票を投じる予定のようです.

Resultate 1. Abstimmungsbarometer gfs.bern/SRG  - via swissinfo.ch

スイスという国には不思議というか,面白いというか,ユニークなところが少なくありませんが(日本も向こうの人にすれば変わった国と思えるでしょうが*2),国民皆兵制度は特にドイツ語圏では文化の一部になっているというようなことを聞いたことがあります.(フランス語圏ではそれほどでもないそうです.)それにより友達の輪が広がるとか(国民同士の団結が強まる),兵役において昇進するなど優秀な成績を残すと勤務先の企業でも優遇されるとか...映画でも少々変わった兵士を題材にした"Soldat Läppli"というコメディーがありますが,いわば,チェコの『善良な兵士シュベイク』のスイス版です.日本にも故春風亭柳昇師匠の『与太郎戦記』がありますね.

最後に,誤解を避けるために付け加えますが,国民皆兵制度自体が不思議な制度ということではありませんので念のため.もっとも,以前,スイス人のある実業家の方から伺ったことですが,スイスが独立していられるのは経済的にうまく行っているからであって,もし経済がだめになれば,スイスは周辺の国に吸収されて消滅してしまうだろうと,その方をはじめ考えている人もいるようです.恐らく冗談まじりだったと思いますが.とはいっても,スイスというと軍事産業が盛んなことでも知られていますし,国民皆兵制度を始め,防衛政策もかなり実践的です.例えば,高速道路上で戦闘機が離着陸出来る区間があちこちに設定されていて,たまに当該区間が閉鎖され訓練が行われることもあります.その他,大規模な建物には必ず核シェルターの設置が義務づけられていますし,あちこちに人々が普段でも実弾をつかって訓練できるように射撃場が設置されています.

日本でも,先日の参議院選挙で,少なくとも投票に赴いた方の大半は国防軍なるもの(今の自衛隊と比べてどこがどう違うのかよくわかりませんが)の設置を希望しているようなのですが,国防に関してはスイスのような国を希望されているのでしょうか...ただ,軍事大国といえないこともないスイスですが,その一方で,最低年3週間の有給休暇もばっちりとります.*3)さらに,OECDの統計を見ると単位時間当たりの国内総生産もトップクラスです.ようするに労働効率が良いということですが,同じデータで下から数えたほうが早い日本の順位*4)を見るとき,ほんとうにスイスみたいになれるかなと首をひねってしまいます.さらに戦争遂行には用兵においてはもちろん,兵器開発および生産においても合理性が必要であることは論をまちませんが,先の戦争において結果としてその両方において合理性を欠いていたことが明らかになっています* 5)果たして,そうした合理性を今の日本人が身につけているかおおいに疑問です.さらに加えるならば,自国の存続のためのみならず,そのために自らの命を捧げて悔いる事のない崇高且つ普遍的な大義(建前だったとしても)と国民全体が付き従う事のできるリーダーも,少なくとも第二次世界大戦における連合国側を見る限り,勝利を目指して戦争を遂行するためにはあったほうがよさそうです.*6)連合国側が掲げた大義は,自由を守ることだったでしょうし,また,国民全体を団結させる指導力を持っていたのが,英国のW. チャーチル首相であり,米国のF. D. ルーズベルト大統領です.こうした要素が今の日本にあるでしょうか.最後にもうひとつ加えたいのが,透明性です.戦争の見通しや資源の備蓄などについて,日本の軍部は天皇にさえ真実を伝えませんでしたが,The Times(US)を始めアメリカのニュースメディアは戦死した兵士たちの写真を掲載し*7),また,ルーズベルト大統領も,参加した海兵隊員10000名のうち1/3が死傷したというタラワ島の戦闘の模様を撮影した死傷者の映像も含むニュースフィルムの上映を命じています.もちろん,結果的にこうした情報開示は,アメリカ国民の日本人に対する憎悪を増大させ(たちまち,"Death to the Japs!"の大合唱が巻き起こりました),同時に,早く戦争を終わらせなければならないという強い使命感も形成させ,それによって国民全体が団結し,戦争の早期終結へ向けて一丸となったことも事実であり,それがこれらのメディアを使う側の意図だったかもしれません.しかし,少なくとも国民は限られた形にせよ,真実を目にすることができ,自分たちが置かれた状況を知ることができたのでした.こうした透明性が,現在,多くの有権者が望んでいるという改訂憲法において担保されるでしょうか.

なお,国民投票の結果に興味をお持ちの方は,22日付のスイスの各ニュースサイトを閲覧されるか,あるいは,http://www.suedostschweiz.ch/multimediaなどで配信されるニュースなどを視聴されるとよいでしょう.*8)後者はグラルスのTV局で地元の言葉で放送されます.(アルプスの少女ハイジが話している言葉.)

このポストを一旦公開した後,ちらっとTages-Anzeigerのヘッドラインを見たら,国民皆兵制度廃止を望む団体の意見として,志願制のほうがより効率的な運用が可能であることが挙げられているという内容の記事が目につきました.*9)



*1) Written by Sonia Fenazzi, Swissinfo.ch
*2) 例えば,今年になってヨーロッパ(少なくとも仏独語圏)のニュースメディアは,日本の政治家たちの言動に関してやたらにたくさんの記事を載せましたが,ほとんどが第二次世界大戦中の日本が周辺国に対して行った非人間的行為を否定する発言や,ヨーロッパでは考えられないようなナチス礼賛についてのものでした.なお,「従軍慰安婦」は,英語では"Confort women"ですが,フランス語では,"Femmes de réconfort",そしてドイツ語では"Trostfrauen"(仏独語ともに複数形)と訳されています.こうしたキーワードでLe Monde(仏),Die Spiegel(独),NZZ(瑞)などのサイトで検索すると,はっきり言っておびただしい数の記事が表示されます.なお,Le Mondeなどのフランスのメディアで検索する場合は,femmes réconfort Japonなどと入れた方が結果が絞られるようです.気になるのが,従軍慰安婦についての記事では,ほぼ例外無く「20万人のアジア人女性が日本軍兵士のために強制売春させられた」というように,その数を20万としていることです.いずれにせよ,今や,ヨーロッパでは,日本は第二次世界大戦当時,従軍慰安婦としてアジア人女性20万人に兵員たちに対し強制売春をさせ,それを罪悪として認めていない(あるいは,認めたがらない)ということは,常識として定着したようです.日本人政治家の先生たちの確固とした信念から発せられた数々の言葉によって.(数字はともかく歴史的事実であることは確かですが.)
*3) 古いデータで恐縮ですが,例えば,こちらの2009年のデータでは,スイスの年間の有給休暇は20日となっています.日本は10日.そして,トップのフランスは30日.
*4) 日本の単位時間当たりの国民総生産の生産量は,OECD全加盟国の平均44.6USDより低く41.6USD.なお,一応日本も含まれるG7の平均は53.3USD.
*5) Cf. 例えば,内藤 初穂 著『海軍技術戦記』,東京,昭和51年,図書出版社など.また,最近では,中田 整一 編『真珠湾攻撃総隊長の回想 淵田満津雄自叙伝』も戦争に挑む日本人の姿勢における非合理性について多くの示唆を含んでいます.
*6) 吉田 茂 著『鎮魂 戦艦大和』の中で言及されている兵学校卒の士官と短期現役士官たちの間の衝突の原因も後者が普遍的な大義を求めていたからだったといえるでしょう.古来,地縁血縁によって自然成立した共同体の中でのみ生きて来た日本人は普遍的な倫理という概念には慣れていないのですが,それは兵学校以外で高等教育を受けた若者たちが死を直前にして感じた実存的な疑問の素直な表明でした.伝統的に日本人にとっての善とは,自分が属する集団の存続,繁栄のために犠牲となることであり,それが家族より高位のレベルに対する場合は「忠」,親や家族の目上のものに対する場合は「孝」なのであって,それらの枠組みから離れての善,悪,あるいは,それらを超越する善,悪といった倫理概念はあまり発達しなかったのです.それが,*2)で述べたような政治家の発言を招いてしまっていると言えると思います.問題とされる発言をする政治家及び彼らを支持する人たちにとっては,国家という共同体に自らを犠牲として捧げたと認められる行為が善,逆の行為が悪という価値付けのみが可能なのです.言い換えれば,国家を超えた次元に於ける善,悪の価値付けには意味や必要性を見いだせないのです.しかし,一神教の啓示宗教の文化圏に属している西洋諸国にとって,所属する集団の利益,例えば国益も重要ですが,同時に人類共通の普遍的な価値を考慮することも重要なのです.そのため,ことさらに自国の戦死者のみを慰霊および崇敬の対象として祀り,日本の侵攻および支配によって被害を受けた周辺諸国の犠牲者について関心を示さない姿勢は,西洋諸国から奇妙と思われて不思議ではありません.

ルネサンス,宗教革命,啓蒙主義運動,市民革命といった一連のプロセスによって人権等の普遍的とされる倫理的価値を築いてきた西洋諸国に比べ,我が国においては,自らの出生によって自然に成立した家族やそれを含む村落という共同体の存続および繁栄のために無条件で尽くすことが唯一の倫理であり,その倫理に対して疑問を持つ事自体あまりなされてこなかったのみならず,時には疑問を持つ事がタブーとされてきました.そのため,自分が属する共同体を超えて存在し得る価値などが議論の対象となる契機が封じられてきたことも事実です.それはまた,ユダヤ教やキリスト教のように,万物の創造主である超越神による被造物である人間への普遍的な価値の啓示という経験を持たない私たちの限界とも言えるかもしれません.ところで,このように所属する集団への無条件の服従をひたすら教え込んだ我が国の歴史は,日本人の無責任と見える姿勢をも生み出しましたが,同時に彼らの運命主義的な姿勢をも培ったとも言えます
*7) The Three Americans in The Times, Sept. 20 1943.ニューギニアの海岸に横たわるアメリカ軍兵士の死体を撮影した写真が掲載されました.
*8) 先日,新しくなったSFのサイトですが,どういうわけか以前視聴出来たTagesshauが視聴できません.ファイルのダウンロードはできるのですが,面倒なので最近は上記の東南ドイツ放送のニュースを視聴しています.ご参考迄に,自宅の環境はMacとFirefoxなのですが,そのせいとも思えません. 
*9) «Eine Freiwilligenarmee ist leistungsfähiger» 8月15日付の記事ですが,すでにコメントが250以上も寄せられています.

Saturday 17 August 2013

「都市伝説」をフランス語で言うと

そのまま訳せば良くて,"Légende urbaine"です.英語の"Mondern folklore"も,そのまま訳して"Folklore moderne"です.もっとも,もとはフランス語で使われ始めて,それが後に英語や他の言語に訳されたようですが.

最近,CIAが,これまでそんなもの無いと言っていたロズウェルの秘密基地の存在を認めたそうですが,だからといって宇宙人(の死体?)を隠しているとは言っていないそうです.この基地は,都市伝説や映画の中では,どういうわけか,Zone 51とか,Area 51と呼ばれていますが,今や,Googleの地図にしっかり載っていて, 正式名称は"Paradise Ranch".冷戦時代,太平洋でのフランスの核実験の模様を撮影するために使用されたロッキードの偵察機U-2の基地だったそうです.

以上,2013年8月16日付電子版Le Monde紙Le Blogのポスト"ROSWELL – La CIA reconnaît pour la première fois l’existence de la Zone 51"からでした.

(CIAによって公開された関連文書のダウンロードは,こちらから.407ページあるそうです.

Friday 16 August 2013

タデウス・ヘルトレ氏の肖像

今年の4月,ポーランドのウォルスティンという町で毎年開催される蒸気機関車祭りを観に行ってきました.

当日は雨模様だったものの,ドイツのコットブスから01 5,23 10*1),そして18 201によって牽引推進された特別列車でのウォルスティン往復の旅は,ドイツSLのファンの一人として思い出ぶかいものとなりました.

国境を越えてポーランドに入った特別列車.往路の編成は,01 5+23 10+客車+18 201.Czerwiensk駅にて.

このウォルスティンという町には,マルチン・ロジェック美術館(Marcin Rożek Museum)という美術館があり,ウォルスティンゆかりの画家であり彫刻家マルチン・ロジェックの作品が展示されています.館内を見て回る前に学芸員の方から,ロジェックと展示品についての説明を伺いましたが,日本から来たのなら是非見せたいものがあるといって案内してくれたのが下の肖像画でした.

1908年にロジェックによって描かれたタデウス・ヘルトレ氏の肖像画(20歳ごろ?).6年後の1914年,ドイツ軍兵士としてチンタオの戦闘に参加することになる.

モデルとなったタデウス・ヘルトレ(Tadeusz Haertle)氏についてはこのとき初めて知りましたが,日本に戻って調べると,同氏については義理の娘さんにあたる安宅温さんの著書『ひびけ青空へ!歓喜の歌 坂東ドイツ俘虜収容所物語』(ポプラ社刊)に詳しく書いてあることを知り,早速読みました.美術館では学芸員の方から,ヘルトレ氏が大阪でジェネラル・モータースに勤め,その後,和歌山や京都,西宮などの学校で英語を教えていたこと,また,日本で日本人女性と結婚し,結婚式は神社で挙げたこと,そして日本で亡くなったことなどを伺っていたのですが,ドイツ軍の兵士としてチンタオ戦に参加し,その後戦争捕虜として四国の松山の収容所に収容されていたことはこの本を読んで初めて知りました.

ドイツやロシアなどの周辺の大国の思惑に翻弄され,一時は国自体が消滅させられたポーランドですが,第一次大戦中,ヘルトレ氏が暮らしていたポズナンはドイツの領土となっていたため,彼は不本意ながらドイツ軍の兵士として日本軍との戦闘に参加させられたのでした.このあたりの事情を知ると,第二次世界大戦時,激戦を極めたイタリアのモンテ・カシノの攻略戦で,連合軍として参加したポーランド軍の兵士たちのドイツ軍に対する勇猛果敢な戦闘振りの理由がわかるような気がします.*2)ドイツ人捕虜たちとの生活を執拗に嫌ったヘルトレ氏もこうしたポーランド人の不屈の精神の持ち主だったのです.一旦は故郷ポーランドに戻ったものの,第二次世界大戦後,共産党政権が樹立されたため,それを嫌って再び来日し,ついに祖国に戻ることはなかったヘルトレ氏ですが,その生涯を思うとき,オギンスキのポロネーズ『祖国との別れ』*3)の旋律が思い出されます.

ポーランドを訪れたのは今回が初めてでしたが,何故か,昔からこの国には惹かれるものが多くあります.例えば,日本語に訳された作品は殆ど読んでいるSF作家スタニスラフ・レム*4),日本で公開された映画は殆ど観ている映画監督のアンジェイ・ワイダ,ナチスによる迫害にさらされた孤児たちのために命を捧げたコルチャック博士,アウシュビッツの聖者と呼ばれたコルベ神父,キュリー夫妻,そしてエスペラントを考案したザメンホフなど,これまで作品や記録を通じて多くのポーランド人と出会いました.さらに,ナチスの空爆を受け,がれきの山となった首都ワルシャワやグダンスクなどの昔の街並を忠実に復元したことも知りましたが,音楽や文学などの芸術や学術の諸分野において秀でた人材を輩出し,また,最後迄自分たちの文化や伝統,そして誇りを失わないこの国の人々をうらやましく思うと同時に,彼らに崇敬の念を覚えるものです.

ところで,ウォルスチンの町でコーヒーが飲みたくなったら,役場の広場にほど近いところにあるCafé de Parisがお薦めです.女将さんだと思いますが,とても親切に英語で対応してくれました.コーヒーと一緒に注文したケーキもとてもおいしく,雨に濡れて冷えた体に元気が戻るのを感じました.なお,ポーランドの通貨はズロティですが,街中の銀行ATMはもちろんクレジットカードによるキャッシングに対応しています.

ヘルトレ氏の肖像画へ案内してくれた学芸員のマリウスさん.退館するとき,応急ポーランド語会話も教えてくれました.でも,ポーランド映画を観ていたおかげで,ドーブリジンとジンクエは判りました.

マルチン・ロジェック美術館(中央の建物)の裏庭.

蒸気機関車祭りで購入したお土産をひとつご覧にいれます.会場の特設郵便局で購入した記念葉書です.

お好みの切手を購入し,記念の消印を押してもらった絵葉書.ポーランド語なので読めませんが,parowózというのはエンジン,つまり機関車のことを意味しているようです.(切手が大きく,宛名が書きにくそう.)

国内各地からはもちろん,ドイツ,アメリカ,オーストラリア,そして日本など世界中から大勢のファンを集めている蒸気機関車祭りですが,その最大の呼び物は,なんといっても当日午後の蒸気機関車のパレード.ウォルスティン駅の構内を10台ほどの機関車が何回も往復します.会場のMCはポーランド語とドイツ語.機関車好きとしては,こういうものこそ世界遺産にしてほしいのですけど.なお,ポーランドの蒸気機関車の形式表記については,WikipediaのPKP(ポーランド国鉄)classification systemをご覧下さい.同じくList of PKP locomotives and multiple unitsではPKPの機関車が紹介されています.ちなみにBR52はPKPではTy2と呼ばれます.(Tは貨物用,yは2-10-0の車輪配置(1'E)を表しています.)

復路で特別列車の主務機を務めた増結テンダー付18 201.前補機は往路同様01 5,後補機は23 10*1).帰着直後,コットブス駅にて.



*1) 23 1019:01 509および18 201同様,元東ドイツ国鉄の機関車の23 10形の一両.従来の23形と共通しているのは車軸配置やランニングギアの寸法のみ,ボイラーを始めその他のパーツは新しいものとなっていて,給水加熱器には01 5始め他の多くのEinheitslok同様,IfS/DR式(混合給水加熱器)が採用されている.(混合給水加熱器の構造図1970年5月のEDV番号導入以降は35 10形に改称された.また,1003号機以降は給水ドームは撤去されている.
*2) モンテ・カシノの戦闘を歌ったのが『モンテ・カシノの赤いポピー』(Czerwone Maki na Monte Casino)また,ポーランド軍のMI部はナチスの暗号を解読し,情報戦においても連合軍の勝利に大きく貢献した.
*3) Michał Kleofas Ogiński作曲によるPożegnanie Ojczyzny

*4) 特に好きなのが,『宇宙創世記ロボットの旅』と『砂漠の惑星』.二冊とも,これを越えるSF作品は地球上に存在しないと信じております.ただ,短編のコミックでは,岡崎二郎氏の『アフターゼロ』,『アフターゼロ ネオ』シリーズが最高のSF作品だと思っています.

Sunday 11 August 2013

肉食が人類と地球にもたらしているもの

先日,ARTEで放送された"Adieu Steak!"というドキュメンタリー番組の内容からいくつか印象に残ったことを紹介します.
  • EUの食肉生産に脅かされる南米やアフリカの発展途上国の環境,経済,市民の生存権

    今や,欧州連合は世界に冠たる食肉生産地.ドイツでは毎年一人当たり平均で70kg,フランスでも60kgの食肉が消費されていますが,それを超える毎年4200万トンもの食肉が域内で生産されています.それを可能にしているのは,まず,毎年のEUの予算の実に40%にあたる農業助成金の600億ユーロ.(2010年度)そして,ブラジル,アルジェンチン,パラグアイなどから低価格で輸入される飼料,さらに,効率を最優先にして,徹底的に合理化された生産設備です.

    このうち,発展途上国に問題をもたらしているのが,南米における輸出用飼料の栽培です.1kgの肉を生産するには16kgの飼料が必要ですが,例えば,パラグアイでは,粉末にして飼料にされる大豆の栽培が盛んです.輸出用大豆の栽培を手がけているのはブラジル,アルジェンチン,ドイツなどの外国資本.それらは,広域にわたる農耕地で遺伝子操作により農薬に対し耐性を持った大豆を栽培しますが,大量に散布される農薬は環境を汚染し,周辺地域では奇形児の出産の増加が医療機関によって報告されています.また,これらの外国資本によって行われる農耕地の取得は,結果として貧しい農家を住んでいた土地から追い出しています.追い出された人々が住める場所といえば,いつ追い出されるか知れないキャンプか,都市のスラム街くらいです.

    同じく発展途上国であるガーナやベナンなどのアフリカの国々では,EUから輸入する安価な食肉により国内経済が打撃を受けています.2003年,ガーナは国内の生産者を保護する目的で鶏肉の輸入関税を引き上げようとしましたが,国際通貨基金から,関税を引き上げた場合,今後の融資はできないと言われたため引き上げを断念しました.また,ベナンは2010年,3000トンの鶏肉をEUから輸入しましたが,その大半がナイジェリアへ密かに運ばれ,闇市場で売られました.ナイジェリアは,EUの食品を受け入れていないからです.ナイジェリアに運ばれる際,鶏肉は新鮮に見せるために猛毒のホルマリンに浸けられたそうです.

  • 中国で医師たちが危惧する食肉による循環器系疾患の増加

    国内総生産では日本を抜き,世界第二位となった中国.もはや準先進国と言ってよいでしょう.その中国で問題となっている肥満ですが,現在,大人三人のうち一人は太り過ぎと言われているそうです.その原因の一つと考えられているのが,食肉の消費の増加です.1980年の統計によると,当時,中国では一人当たり年平均で14kgの肉を食べていましたが,今ではその4倍もの量を食べており,特に大都市における消費量はヨーロッパの都市部におけるそれと同じ程度といわれます.そして,2017年には,それがさらに2倍に増えるだろうと予測されています.こうした食肉の消費量に比例して増えているのが,高血圧,糖尿病などに悩む人の数です.Fuwai病院のGu Dongfeng医師によると,現在,中国では2億人の人が高血圧症であり,肥満,糖尿病の人口も急激に増加しているといいます.同医師によると,今後20年間で2100万人が心臓病などの循環器系疾患に罹り,その1/3がそれらの病気が原因で死亡するだろうとのことです.実は,上で紹介したアフリカの国々同様,中国もEU産の食肉の輸入国なのです.

  • 抗生物質に耐性を持ったウィルスの危険

    現在,EU域内で飼育されている食用の家畜の80%から95%は,屋内の飼育設備で一生を過ごします.そこでは,衛生管理が行き届かないケースがしばしばあり,ウィルスに感染する確率も高くなります.病気に感染した場合,抗生物質が投与されますが,抗生物質が大量に投与されることで抗生物質に対して耐性を持つウィルスも生まれます.こうしたウィルスが食肉を媒体として人体に取り込まれた場合,それによる発病は抗生物質が効かないため治療する事ができません.そのために死亡する患者の数は,ドイツでは年間15000人にのぼるそうです.その他,肉の過剰摂取は通風,リューマチ,ガン,糖尿病の原因とされていますが,世界で増え続ける肉の消費量に比例する形でこうした病気も増加すると考えられます.なお,抗生物質は,家畜を太らせるためにも投与されています.

  • 家畜の飼育による環境汚染

    家畜を飼育する事が,直接,環境汚染を発生させているという報告もあります.ひとつは,堆肥の大量使用による地下水の汚染.農地の土壌改良のために散布される家畜の堆肥の硝酸塩が地下水に溶け出した結果,現在,ドイツでくみ上げられている地下水のうち1/3は過度の硝酸塩を含んでいるといわれます.自然の中の美しい小川も付近が耕作地の場合,要注意です.番組中,オランダ国境の近くで行われた湧水の水質検査の様子が紹介されていましたが,そこで採取された水は通常の18倍もの硝酸塩を含んでいました.硝酸塩は,発がん性物質を生成させる化学物質です.

    もうひとつは,家畜が放出するメタンによる大気汚染です.二酸化炭素よりはるかに高い温室効果をもたらすメタンですが,世界で大気中に排出される量の30%が牧畜などの農業活動によるもので,そのうちの75%が家畜から排出されています.そのため,ある専門家は,もしすべての人が日曜日にしか肉を食べなければ,大気中のメタンの量は20年前のものに戻るだろうと言っています.現在,多くの研究者が,飼料を変えることで家畜から排出されるメタンの量を減らすことができないかと研究を続けていますが,ドイツのロストックにある家畜生物学研究所(Lebnitz-Institut für Nutztierbiologie)の研究者によると,根本的な解決策としては家畜の絶対数を減らすしかないとのことです.

  • 動物保護の立場から提起される問題

    どのみち殺されるのだから,別に問題にするには及ばないと思われる向きもおありかもしれませんが,ユダヤ・キリスト教文化圏のヨーロッパだからこそ提起される問題かも知れません.この分野でも二つ問題が紹介されていて,ひとつは家畜たちが一生を過ごす飼育設備の劣悪な環境です.単位面積当たりの飼育密度が高く,一頭が病気に感染するとたちまち全体が感染の危険にさらされます.それがまた,抗生物質の多量投与の原因にもなるのです.掃除が殆どされず,死体も放置されたままなど,ケージ自体が不衛生であるケースもしばしばあります.

    もうひとつは,と殺の際の苦痛です.例えば,フランスでは法律上,と殺の際には家畜は意識を失っていなければならないとされています.唯一の例外は,宗教上の儀式におけると殺です.つまり,と殺される前に家畜は適切な方法(感電や脳を損傷させるなど)により失神させなければならないのですが,ある専門家は,フランスでと殺される家畜の1/3がと殺される途中で意識が戻ってしまっているといっています.これらの問題を提起しているのが,フランスではL214,ドイツではBundPETAなどの団体です.そういえば,本番組には家畜のと殺や解体を行っているCharal社の施設内部においてL214のメンバーが隠しカメラによって撮影したかなりショッキングな映像が含まれていて,それによってArteは同社によって提訴され,係争中であるとのテロップが冒頭に映されていましたが,そういう場合でも向こうのTV局は問題となっている映像を堂々と流すのですね.日本では考えられないと思うのですが.*1)
最後に,番組の途中でしばしばコメントを加えていたLe Point誌の記者Christophe Labbé氏ですが,Vive la malbouffe, à bas le bio !  という本の共同執筆者でもあります.本ドキュメンタリーもこの本の内容に沿っているようです.(Amazon.frなどで購入可能.)

以上が番組の内容のメモですが,まさにグローバリズムの弱肉強食の実態の見本を見せられた気分です.ようするに,まず自分たちの健康を守るために,そして,発展途上国の人々を守るために,最後に地球の環境を守るために肉食はあまりお勧め出来ない習慣といえそうです.


*1) どこで撮影されたものか不明ですが,このような動画も配信されています.(番組とは関係ありません.)いくら殺されるために飼育されているといっても,こんな扱いをされたら豚も気の毒です.宮沢賢治の『フランドン農学校の豚』を思い出しました.

Saturday 10 August 2013

ドイツ南西放送局の鉄道ファン向け番組"Eisenbahn-Romantik"情報 - 2014年カレンダー,8月のプログラムなど

番組のホームページへはこちらから.

まず,来年のカレンダーについてですが,すでに発売されているようです.(ISBN 978-3-86192-361-9.書店,またはSWR Shopで購入可能とのことですが,日本に発送してもらうとしたらAmazon.deが手軽だと思います.定価は19.95ユーロ.)表紙を飾るのは,チェコのアルバトロスとポーランドのグリーン・アントン.そして毎月,世界各地の機関車や列車の写真が目を楽しませてくれます.*1)

ウォルスティンで見かけたアルバトロス

次に8月中の番組ですが,夏休み中ということもあって,以下の放送が予定されています.恐らくMedhiathekにアップロードされると思いますので,その場合は,日本でもインターネットを通じて視聴が可能です.(案内役のHagen v. Ortloffさんの8月のコラムへはこちらから.先日,お孫さんと一緒に7時間かけてシュトゥットガルトのS-Bahnの旅を楽しんだそうです.)
  • 8月10日:Eisenbahn-Romantik unter Volldampf:美しい自然の景観と多くの保存鉄道が走る英国はウェールズ地方ですが,そこにSnowden Mountain Railwayを訪ねます.当該路線は100年を超える歴史を誇りますが,開業当時のアプト式SLが今だ現役で,ウェールズの最高峰にアタックします.次に向かうのは,アメリカはヴァージニアのCass.その昔,木材輸送に利用された路線が,40年前,鉄道ファンと州政府の努力によって復活し,今やCassは,米国において最も多くの森林鉄道用機関車を擁する車両基地となりました.最後は,シュヴァーベンの一人の熱心な蒸気機関車マニアが発起人となって発足した鉄道友の会Eisenbahnfreunde Zollernbahnの物語.今やメンバーは40名を数えますが,彼らが最初に主催したSL列車の運行は,1973年4月のことでした.
  • 8月17日:Eisenbahn-Romantik in Bayern:ドイツにおける鉄道発祥の地バイエルン.まずは,アルブス地方で最も美しい路線と言われるKarwendel線を訪ねます.次は,バイエルン森林鉄道(Bayerische Waldbahn: Plattling - Bayerische-Eisenstein).ZwieselからはSL牽引.リポートに登場する70 083機関車を所有するBayerischen Localbahnvereinは,今年創立100周年を迎えました.その他,鉄道で繁栄するBerchtesgaden地方など.
  • 8月24日:Eisenbahn-Romantik zwischen Bodensee und Westerwald:ドイツ,オーストリア,スイスをまたがるボーデン湖(あるいは,コンスタンス湖)の周辺にもいくつかの保存鉄道が存在します.番組では,復活したアプト式SLの97501や可愛らしい森林鉄道,そしてチェーンソーなどを使って自然の浸食から保存鉄道の路線を守る鉄道友の会の活動などを紹介します.(52も登場しそうです.)
  • 8月31日:Eisenbahn-Romantik in der Schweiz zwischen Jungfrau und Bernina:スイスのユングフラウ線とベルリーナ線.クロコダイルに牽引されたプルマン編成の氷河急行が登場します.(再放送)




*1) ドイツの鉄道を始め,他の国の鉄道カレンダーをAmazon.deで探す場合は,素直に"Eisenbahn Kalender 2014"といったキーワードで検索するとたくさん出てきます.殆どが日本迄発送可能です.(特定の国のものを希望する場合は,その国の名前を加えてください.ex. "Schweiz", "Deutschland", etc. また,蒸気機関車のカレンダーの場合は,"Dampflokomotive(n)"を加えてください.)なお,日本のamazon.co.jpでも,上記の要領で検索するといくつかのドイツのカレンダーが表示され,日本国内であれば通常は送料は無料のようです.さらにドイツの鉄道専門の出版社VGBのオンラインショップへ注文しても日本迄発送してくれます.そのうちのひとつ,東ドイツ国鉄のSLの写真を用いたカレンダー"Reichsbahn-Dampf 2014"には,おまけとして下記のシーンを含むDVDが付いているそうです.

Thursday 1 August 2013

映画『風立ちぬ』を観て思い出したこと - 一人の鉄道ファンとして

零戦開発時の主査堀越技師をテーマにした作品ということで標記映画を観に行きました.以下,感想というより観ていて思ったことや思い出したことをいくつか記します.
  • 大正時代の国産の名機関車9600形,8620形*1)が登場し,さすがは機械に凝る宮崎監督と嬉しくなりました.ただ,欲を言わせていただければ,1930年台前半当時の東海道線が登場する場面では,旅客列車ではC51, あるいはC53を,また貨物列車ではD50を,それぞれ牽引機として走らせてほしかったのですが.
  • 堀越技師が欧米を視察するとき,ドイツで乗車した列車がS 3/6(BR 18)形蒸気機関車*2)に牽引されていたので,やはり嬉しくなりました.なお,どうでも良いことですが,汽笛の音に日本の機関車のものと思われる音(昭和初期以降の機関車の五室音と呼ばれる複音汽笛.C54形から導入されたもの.)が使われていたので,ちょっとだけがっかりしました.(ドイツの蒸気機関車の汽笛は,おしなべて日本の機関車のものより高音です.そのためか,場合によっては物悲しく聞こえます.*3))参考迄に,こちらの動画で01と18の汽笛を聴き比べることができます.)*4)
  • 信越線の碓氷峠に導入された最初の電気機関車,ドイツ製の10000形*5)も登場しました.
  • ユンカースについては,多数のJu52がドイツやスイスに動態保存されているので,それらに乗って遊覧飛行を楽しむことができます.(例えば,こちらのサイトをご覧下さい.)ふと気づいたのですが,今でも航空機のオールドタイマーとして人気のあるJu52も,各地で現役の蒸気機関車52形*6)も,両方ともドイツの工業技術の歴史に残る名機ですが,それぞれ名前に52という番号を含んでいますね.面白い符合です.日本にもC52(米国製の3気筒機),D52という蒸気機関車がありましたが.
  • 日本の技術者は航空においても鉄道(たとえば島安次郎技師など)においても戦前は,どちらもドイツを向いていた模様ですね.ただ,少なくとも後者に関する限り,最初,つまり明治においては,新政府の中枢を占めていたのが,幕末以来英国と深い関係にあった鹿児島藩や萩藩出身者たちであったため,英国をお手本としましたが.*7)
  • 最初に登場する航空母艦は,艦橋がないので千歳でしょうか.
  • 同航空母艦の背景の軍艦は,煙突の形状から判断すると高雄型の巡洋艦でしょうか.
と,機械についてのことばかりですが,ことによったらプログラムを買えば,中に説明されていたかもしれません.

最後に,感想めいたことを少し記します.

『風立ちぬ』は,ポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓地』を下敷きにした,寓意に富んだ映像詩とでも呼べる作品だと思います.そのため,零戦の開発過程を中心主題としたものと思って観ると,期待はずれのものとなってしまうでしょう.もし,そのような作品を望むのであれば,ペーパーコミックですが,小澤さとる氏の『黄色い零戦―イエロー・ファイター』(新潮コミック)などのほうがストーリー展開もはるかにわかりやすく,期待に十分応えてくれます.*8)一方,本作品は,堀越技師と同僚の会話の中で何故《アキレス》がしばしば現れるのか,あるいは,最後のシーンの多数の飛行機の残骸の意味など,ヴァレリーの詩を読んでいないと,監督が意図したものを理解するのはむずかしいように思えます.

宮崎監督が,この作品を通じて表現したかったもののひとつに,生命と創造の息吹に満ちた地中海文化圏と暗く,寒い,どちらかというと生より死を想起させがちのアルプス以北の文化圏の対比があったのではないかと思います.そして,その対比を通して,生命=創造対死=破壊の対比を描きたかったのではないかと思うのです.(少なくとも,それがヴァレリーの詩の主題であると思いますが.)たとえば,作品全体を通して堀越技師の精神的な父として登場するカプローニ氏はイタリア人で,二人の会話は,どこか『風の谷のナウシカ』におけるユパ・ミラルダとナウシカの間のそれを思い出させますが,彼は象徴的な意味でも地中海文化圏,すなわち生命=創造の世界の住人です.(彼の国は,ムッソリーニのような人物を指導者として仰いだこともあったにせよ.)*9)さらに,菜穂子夫人もカプローニ氏と同じ世界の住人といえます.それは,彼女が,アルプス以北文化圏を作品内において象徴しているドイツではなく,地中海文化圏を象徴しているフランスと関連づけられているからです.最初に堀越技師に出会ったとき,彼女は「Le vent se lève」とフランス語でヴァレリーの詩を彼に投げかけ,また,軽井沢で再会する場面での彼女はモネの『日傘をさす女』*10)によく似た陽光溢れる風景の中に現れますが,これらのアトリビュート*11)により,彼女はフランス,しかも,特にその地中海文化圏に属する部分と結びつけられて描かれているのです.

これら二つの世界の間で翻弄される堀越技師は,夢の中ではカプローニ氏に,そして現実世界(あくまで映画の中における)では菜穂子夫人によって,生命=創造の世界に導かれ,その結果,零戦の先行モデルである革新的な九七式艦上戦闘機を完成させるに至ります.


9月1日付電子版Le Mondeの宮崎駿監督引退を伝える記事に掲載されていた宣伝用動画




*1) 8620や9600と言えば,ボイラー両脇に設置された歩行板の両端,つまり前方のエプロン部と後方の運転台につながる箇所が一旦下に向かって直角に折れた後,それぞれ曲線を描いて外側へ水平へ伸びるデザインとなっていますが,これは当時の開発事情を見る限り英国の機関車のデザインを真似たものでしょうが,ドイツの領邦鉄道時代に製造された機関車でも同様のデザインがされた車両がありました.下の写真は,ノイエンマルクトのドイツ蒸気機関車博物館(Deutsche Dampflokomotiv Museum)所蔵の38(旧プロイセン国鉄P8形:2'C h2;動輪直径:1750 mm)ですが,そのようなデザインを持ったマシンのひとつです.また,特に8620では,運転台の前下部がS字カーブを描いたデザインの車両もありますが,こうしたデザインも1887年から製造されたプロイセン国鉄の旅客用テンダー機P 3.2や同じく急行旅客用S 4(世界最初の過熱蒸気式機関車)などに見られるものです.日本の国鉄でも,最初の標準機6700形がこのデザインでした.確認した訳ではありませんが,こうしたデザインは恐らくドイツが最初に採用したものと思っています.(英国の機関車は,初期からかなり長い間,歩行版の位置が低くエプロン部から運転台の下迄直線のままでした.)
*2) 下の写真は,ノルトリンゲンのバイエルン鉄道博物館(Bayerisches Eisenbahnmuseum)所蔵の美しい緑塗装の18(旧王立バイエルン鉄道のS 3/6:2'C1' h4v; 動輪直径:1.870 mm).往年の豪華特急ラインゴールドなどの先頭を飾った,ドイツの急行旅客用機の中で最も美しいエンジンのひとつ.彼女はまもなくボイラーの耐用期限を迎えるため,来年2014年はさよなら運行として様々な特別列車の牽引が予定されています.例えば,2月1日に運行が予定されているノルトリンゲン発リンダウ行きウィンターエキスプレスなど.これらの特別列車に関する詳しい情報はこちらから.お問い合わせや予約はこちらから.
*3) ドイツの蒸気機関車の汽笛の構造は,こちらをご覧下さい.
*4) ところで,鉄道ファンとしては,もし本作品が海外の,特にヨーロッパの映画祭に出品されるとしたら,当該のシーンの汽笛の音を是非18形のそれに換えていただければと思います.たかが汽笛の音ですが,少々大げさに言えば,人間が長きにわたってつきあって来た鉄道の機械が発する音のなかで,汽車の汽笛は民族の無意識の中に固定されている重要な記憶として,それ以外の民族固有の記憶と強く結びついている音といえます.そのため,慣れ親しんでいるものとは異なる音を聞いた場合,観客が映画を観ながら行う追体験の流れが中断してしまう可能性があるでは,つまり,興ざめしてしまうのではと思ってしまうのです.(厳密に言うならば,作品中登場した9600や8620の汽笛も,本来は3室音で5室音より高音でなければならないのですが.こちらはそれほど気になりませんでした.)
*5) Wikipediaの情報によると,1928年10月にEC40と呼称変更されたため,本来なら映画に登場する際,ナンバープレートには10000ではなくてEC40と表記されているべき.なお,こちらのサイトの情報によると同形式は1936年の4月に一斉に廃車されたそうです.また,集電装置も当初はポールと集電靴の併用方式がとられていたが,後にパンタグラフ集電に変更されたそうなので,恐らく映画で描かれた時代においてはすでに変更されていたと思われます.
*6) 今でもドイツや東欧,さらにトルコなどで動態保存されている52形ですが,1942から7000両以上が製造され,当時としては,世界で最も多く製造された蒸気機関車でした.
1E配置で運転整備時重量84トン,最高速度は80km/h.ポーランドのウォルスティン機関区所属の同形式は,今でもばりばりの現役機です.戦後,ポーランドではTy2の形式名が与えられましたが,これをベースにポーランドで製造されたのがTy42です.
*7) 日本で最初に開通した新橋,横浜間の路線の建設を指揮した工部省鉄道頭井上勝は,元萩藩士であり,幕末にロンドンへ密航し留学した経験を持っていました.
*8) ただ,本作品のラスト近く,97式艦戦の牛に牽かれた搬送の様子,スピードチェックの様子など,各シーンの構図から見て,恐らく宮崎監督は小澤氏の作品の当該の箇所を参考にされたように思えます.
*9) 堀越技師とカプローニ氏の関係に象徴されるように,外国に教え導いてくれる存在を求める姿勢は日本人が長い歴史の中で自然に身につけてきたものです.そうした姿勢や日本のドラマやアニメーションにしばしば現れる父親探しのモチーフについての所感をこちらにまとめてみました.長文で読みずらいと思いますが,ご興味がありましたらご笑覧ください.なお,なお,1960年代のテレビ・アニメーションやSF映画のことを多少ご存知でないと理解しずらいかも知れません.
*10)
パリ近郊のアルジャントゥイユに済んでいた時代(1871-1878)の作品 
*11) Attribute - キリスト教絵画の中で聖人たちが手に持つなどしている,彼らのアイデンティティを示す品物.