Friday 16 January 2015

Al-Qaida系のテロ集団のなかで最も危険といわれるイエメンのAqap(アラビア半島のAl-Qaida)

(このテーマは日本のメディアが詳しく伝えているので,簡単なまとめにとどめます.なお,オリジナルの記事はL'OBSのAqpa, la branche d'Al-Qaida au Yémen. Et la plus dangereuseです.)

アル・カイダ系組織としては,よく耳にするAqim(北アフリカ・イスラム諸国のアル・カイダ)とAqap(アラビア半島のアル・カイダ)があります.

#Aqapとは?

設立は2009年.アル-カイダのサウジ支部とイエメン支部が合併したもので,指導者は,ウサマ・ベン・ラデンの助手だったNasser al-Wahishi.イエメンでの勢力拡大は,当時の大統領Nasser al-WahishiがAqapに対する姿勢を明確にしなかったこと,さらに2011にイエメンの民衆蜂起によって政権が崩壊したことによるもの. 目標は,イスラム首長国の設立.攻撃目標は,一般市民より国家の治安機関.(イスラム国やボコ・ハラムのような)組織的な襲撃や戦闘は行わず,どちらかというと(Charlie Hebdo社襲撃のような)ローカルなゲリラ・テロを行う.現在,Aqapや北部から進攻してくるHussein al-Houthiらにより率いられたシーア派民兵(9月以降Sanaa地区を支配)による攻撃により,イエメンの政情は混乱.

# なぜアル-カイダ系組織のなかでもっとも危険なのか?

アル・カイダがイスラム国の台頭により弱体化するなか.2006年,イラクにおいてアル・カイダの一部が分裂,母体であるアル・カイダと勢力を競い合うようになった.

Aqapの攻撃対象はサウジアラビアとアメリカ.しかし,地元イエメン以外で計画したテロの殆どは失敗に終わっている.例えば,2009年のクリスマスにOumar Faroukが下着の中に隠した爆薬でアムステルダムからデトロイトへ向かうアメリカン航空機の爆破を企てたが失敗.同じ年,サウジの内相を暗殺する目的で計画された自爆テロも失敗.(実行者は自分の直腸内に爆薬を隠していた.)

2010年11月には,アメリカ宛に爆薬を仕掛けた荷物を航空便で発送したが犠牲者は無し.しかし,2009年の11月に発生したテキサスのFort Hood基地襲撃および2010年のドバイにおけるアメリカンカーゴ機の爆破に関わった疑いあり.(その他の実行されたテロはこちらのページを参照してください.(フランス語) )

アフガニスタンにあるアル・カイダの訓練施設と同じようにAqapのキャンプも世界中の若い人を集めている.Kouachi兄弟のひとりは,2011年のイエメン滞在中に銃の取扱いについての訓練を受けている.彼は,同時期,SaanaのAl-Iman大学とイエメンの北西部にあるDammaj塾に通った模様だが,両方とも過激なクルアーンの解釈を教えている.

Aqpaについてアメリカが特に恐れているのは,そのメディアを用いた宣伝戦略のゆえ.Aqapのコミュニケーション部門であるAl-Malahimが配信するビデオに加え,ほかのジハジスト集団に比べ,ソーシャルネットワークを活用することを心得ている.その責任を負っていたのが元AqapのリーダーでイデオローグのAnwar al-Awlaqi.(下の写真)


彼はイエメン人だが,生まれたのはアメリカで,イエメンに行く迄アメリカでイマムの職に就いていた.2011年,アメリカ軍のドローンに攻撃され死亡.英語を話せたal-Awlaqiは,"44 ways of supporting Jihad"の著者であり,2011年に創刊されたウェブマガジン"Inspire"の創刊者.なお,Inspireは襲撃の方法や,爆弾の製造方法などについて解説.(ジハジストたちの連絡の手段については,Les clichés pédophiles, une couverture pour Coulibaly et Kouachi ? in L'OBS参照.)

"Agent Storm: My Life Inside al-Qaeda"の著者のひとりであるデンマーク人で元Aqpaメンバー,Morten Stormは,1月9日にABCニュースのインタビューに答えて,Al-Awlaqiがどのようにヨーロッパ,アメリカ,カナダに何年も潜伏が可能なAqap部隊を作り上げたかを説明している.

#なぜAqpaはフランスを狙ったか?

Chérif Kouachi容疑者は,かつてBFMTVに2011年にイエメンで滞在できたのは,当時,イエメンで知り合ったAl-Awlaqiの資金援助によるものと語っていた.Morton Stromは,Kouachi兄弟は,ヨーロッパに潜伏するAqap部隊のひとつだったとみている.

2013年,"Inspire”はCharlie Hebdoの編集者Stéphane Charbonnierを抹殺すべき人物のリストに記載していた.(下の写真)なお,Al-Awlaqiは,2010年にすでに同紙を,2005年にデンマークのJyllands-Posten紙に掲載されたモハメットの風刺画を掲載したことで脅迫している.そして,フランスは,アル・カイダのアフリカ支部であるAqimとの戦闘と,さらにイラクにおいてはイスラム国との戦闘を開始して以来,国際的なジハード運動における敵を増やしてしまった.

右の列の中央が殺害されたCharlie Hebdoの編集者,Stephane Charbonnierさん.その下は『悪魔の詩』の著者Salman Rushdieさん.モハメッドの風刺画を載せたデンマークのJyllands-Posten紙の編集長Flemming Roseさん.("Inspire"第10号,2013年春発行)

以上が記事の抄訳ですが,先日,パリで発生した一連の凶悪事件についての報道を見ていて,ふと,名誉殺人という言葉を思い出しました.テロではありませんが,今でもドイツのトルコ系の人の間などで起こることがあります.簡単に言えば,娘が親が決めた結婚相手と結婚しなかった場合に娘と駆け落ち相手の両方を家名を汚したという理由で殺してしまう事です. なお,現代ヨーロッパにおけるムスリムたちを巡る問題を理解されたい方には,スイスのVONTOBEL財団の紀要"Über die Freiheit im Islam" (第1950号,2010年)をお薦めします.そして,歴史的な視点からヨーロッパとイスラムの関係を眺めてみたい場合は,以前のポストでもご紹介しましたが,Odile Jacob社の"L'EUR0PE ET L'ISLAM"がお薦めです.(英語に訳されているかもしれませんが,確認しておりません.)

Le Figaroの関連記事: Pourquoi le Yémen fait-il si peur à l'Occident ?

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