Friday 2 January 2015

レジオンドヌール勲章への叙勲を拒否したフランス人経済学者

今の日本では,まず絶対に起こりえないことと言えるでしょう.その最大の理由は,今回の叙勲を拒否したThomas Piketty氏のように政府の経済政策を批判する人が叙勲の対象となることはありえないからです.また,仮に,何かの間違えで対象となり,その上で拒否した場合,特定の新聞や雑誌の轟々たる非難の対象となるのみならず,結果的には世間全体を敵にまわすことになるであろうことは容易に想像できます.*1) ただ,仮に政府にたてつく人でも,Piketty氏のようにオバマ大統領の顧問として招待された場合は,叙勲の対象になるかもしれません.

そう考えながら読むと面白いのは,当のフランスのメディア(L'OBSL'EXPRESS)の報じ方で,批判めいた論調は一切ありません.むしろ,本人が何故拒否したのかを丁寧に説明しています.でなければ,Le Mondeのように,ごく淡々と伝えるのみです.

なお,このポストを公開してから上記3誌から届いたニュースレターに同じニュースが載っていましたが,L'OBSの記事にはPiketty氏がフランス,ヨーロッパ,そして全世界に提案する経済政策の内容が紹介されており,L'EXPRESSの記事にはPiketty氏の叙勲拒否を批判する政治家やジャーナリストのTweetと支持する政治家たちのTweetとの両方が紹介されていました.また,Le Mondeの記事には,これまでにレジオンドヌール勲章への叙勲を拒否した人たちのリストが掲載されていて,その中には,画家のClaude Monet, 作家のGeorges Bernanos, 哲学者で作家のJean-Paul Sartre, 同じくSimone de Beauvoir, Albert Camusなどが名を連ねていますが,2012年に叙勲を拒否した職業病としてのガン研究の専門家Annie Thébaud-Monyは,この病気の原因を作った大企業の経営者達が何等処罰されないことへの抗議から拒否しています.他に拒否した有名人というと,作曲家のBerlioz, 詩人のGeorge Sand, 画家のGustave Courbet, 作家のGuy de Maupassant, 小説家,劇作家のMarcel Ayméなど錚々たる面々の名前が残っています.どうやら,フランスには,伝統的にこの勲章の拒否には現政権への批判という意味も込められていると言えそうです.ただ,この勲章の創設者ナポレオンの統治下でこの勲章の叙勲を拒否した人は投獄されたそうです.

もうひとつ,L'OBSの別の記事で,やはり叙勲を拒否したGenevière De Fontenay氏のPiketty氏の叙勲拒否についてのコメントが紹介されていました.彼女は,ミス・フランスのコンクールの創設者です.このコンクール制度の創設は国家に対する功績とは呼べないからと言うのが彼女の拒否の理由でしたが,Piketty氏の拒否に対しても支持すると述べています.

ところでレジオンドヌール勲章に,日本の文化功労賞のような高額の年金がつくかというと,つくことはつきますが,最高位のグランクロワでも年36.59€という小額であり,殆どの人は受け取らないそうです.(Cf. "La Légion d'honneur, ça rapporte quoi?" in L'EXPRESS)

(関連ポスト:アメリカでベストセラーとなっているフランス人エコノミストの著書"Le Capital au XXIe siècle"世界的な賞の受賞を拒否した有名人列伝





*1) 特定の文字メディアは,「天皇に歯向かう行為」,または「国体を傷つける所行」といった言葉は直接使わないにしても,そうした言辞の基となる哲学や思想に基づいて言論攻撃を行うでしょうし,映像および音声を用いる同種のメディアは「道行く人は...」といって,街頭で批判的な意見だけを拾って紹介し,世間を政府の意向に従うようへと誘導することでしょう.それでも,過去においては日本でも文化勲章の叙勲を断った人がいました.女優の杉村春子,陶芸家の河井寛次郎,作家の大江健三郎等です,ただ,断らなかった人に対する比率は,フランスに比べて圧倒的に小さいと思います.また,日本人にもレジオンドヌール勲章へ叙勲された人がいます.文化人と呼ばれる人では,上記の大江健三郎,また,画家の川合玉堂などがいます.

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